花菖蒲の作り方
花菖蒲の性質

花菖蒲は日本で改良された宿根草です
 花菖蒲は日本の野山の草原や湿原に自生しているノハナショウブを、江戸時代の初め頃から私たち日本人の手によって見つけ出し、300年以上の長い年月をかけて改良されてきた宿根草です。


 花は大きくとてもきれいですが、一輪の花は2日半〜3日程度しか保ちません。
1つの茎から2〜3輪花を咲かせますので、1つの茎からは1週間前後花が見られることになりますが、
大きな株に仕立てても、間隔をあけて茎が上がってくるのではなく、一度に何本もの茎を上げ咲いてしまうので、大株になっても一つの品種の花が咲いている期間は10日くらいです。
早生(早咲き)から晩生(遅咲き)のものまで、品種により開花期に差があるので、数品種栽培しておくと長い間(それでも約ひと月)花を楽しむことができます。


花は変化します
 花菖蒲の花は咲き始めから咲き終わりまで、たえず変化します。
咲き始めの花は小さく、そのかわり色が濃く、咲き進むにしたがって花弁が伸びて、花は大きくなりますが、色は薄くなります。また、ピンク系の花の蕾などは、濃い紅紫になる品種もありますが、咲けば薄くピンクになります。
 また、例えばチューリップなどは、カタログの写真とほぼ同じように咲きますが、花菖蒲は栽培状況や気候風土によって花形が微妙に変化しますので、必ずしもこのホームページと全く同じような花形に咲くとは限りません。
写真は、多くの花のなかから花形が良く咲いた花を、その花がいちばん美しく見える角度から撮ってあります。特に八重咲きの品種は、花形が乱れて咲くことが多く、整ってきれいな花形に咲くことの方がまれです。


ご購入される前に

丈夫な品種と性質の弱い品種
 花菖蒲には、性質が強健で栽培のしやすい品種から、極端に弱く作りにくい品種まで様々あります。
花菖蒲の原種のノハナショウブは性質の丈夫な野草ですが、豪華な花に改良されていくなかで、性質が強健で作りやすいという視点で改良されてきたとは言えず、栽培は作りにくいものをあえて立派に作る名人芸を賞賛する日本独特の考えもあったためか、一概には言えませんが、豪華な大輪花ほど性質が弱く、繁殖が悪く、管理を怠ると枯れやすいものです。
ちょうど金魚の和金が丈夫なのに対し、ランチュウや土佐金の飼育が難しいことに似ていると言えばわかりやすいでしょうか。
 個々の品種解説では、担当者が感じた品種による丈夫さの強弱を記しました。しかし個人的な感想ですので、気候風土により、また栽培する人により、弱かったり丈夫であったりすると思いますので、このことも一応のものさし程度にお考え下さい。
しかし初心者の方は、できれば花の豪華さに目をうばわれず、のマークが付いている品種や、性質が丈夫であると記されている品種から、栽培を始められることをお勧め致します。



購入、植付けの適期
 ポット栽培苗の為、真夏でも購入することはできますが、株分けや植替えの適期は開花直後、または初秋です。

 真夏に植え付けることも可能ですが、生物ですから暑さが厳しい時期は避けた方が無難です。
 また、晩秋から冬、そして春先に植えますと、開花期頃にならないと新根が発生して来ないので、本来の草丈まで伸びないばかりか、環境の急変でその年の開花時期に開花が遅れたり、場合によっては開花しないこともあります。

 なお、4月中旬から6月末日までの期間は、当園の花菖蒲園開園期間に当たるためと、新芽が伸びる期間で苗が柔らかく損傷しやすいため、発送作業は全面中止しております。この期間は当花菖蒲園にご来園していただいて、購入していただくことにしております。園内の売店にて苗を販売しておりますが、保持している品種数が多く生産圃場にて栽培している品種も多いので、全ての品種がその場で即販売できるわけではありません。

上手な買い方
ご来園の上、実際に花を見て、その場で購入するのが一番です。自分で品種とその苗を確認して買えます。
花時に来て花を確認してご購入頂き、お持ち帰り後すぐに株上20cm程度に葉を全部切って、即株分けしますと
1鉢がすぐ3〜4鉢程度に増えます。やはりこれが一番です。

その次は、開花直後か初秋、または春になっての購入です。
冬場はその年の春満足な新芽が出てくるかわかりません。買っても春になって発芽して来ない場合さえ希にあります。ですから春になって新芽が出る4月上旬頃でしたら、株を選んで良い苗を出すことができます。

また、これはたくさん購入させるためにお話することではありませんが、2株ずつ購入するのもおすすめです。
1株では枯れて絶えてしまうこともあり、また早く殖やすことができるからです。
栽培する場合も、1つの品種は1鉢ではなく、かならず複数の鉢を持つようにされると、何らかの被害で枯れて品種が絶えてしまうのを防ぐことができます。


庭植えと鉢植え

花菖蒲は庭植えでも鉢植えでも栽培することができます。

庭植え
プラス面 ・草が大きく育ち花も大きく咲く。
・植え替えは2年〜3年に一回で良い。
マイナス面 ・連作障害が発生するので、何年も同じ場所で
 栽培するのは、土壌改良等が必要になり難しい。
・株が大きくなり植え替えが重労働になる。
鉢植え
プラス面 ・咲いたら好きな場所に移動して観賞できる。
・毎年植え替えることになるが、連作障害とは無縁。
マイナス面 ・庭植えに比べ、花が一回り小さい。
・毎年植え替えないと、根詰まりして次の年の
 生育が悪くなる。

双方ともプラス面とマイナス面がありますが、趣味で栽培されている方は、鉢作りの方が多いようです。



お届けする苗

 お送りする苗は、10.5cmまたは13.5cmのポリポット仕立てです。高級品種はなるべく13.5cmポット
 で作るようにしています。大鉢希望などの指定は承れません。


夏〜秋の状態

お送りする苗の見本 左は13.5cmポット、
右は10.5cmポットです。

春の状態(4月上旬)

苗の開花率
お届けする苗は、開花が見込まれる株ではありますが、生物である以上、植付け初年度に花が100%咲く保証はしておりません。また、初年度は開花する場合、1本ないし2本程度の花が上がります。


苗が届いたら

根鉢をほぐす
 苗は、10.5cm、または13.5cmのポリポット仕立て苗をお届け致します。苗が届きましたら、ポットから苗を抜き、根がかなり鉢の周りを回っている場合は、根を切らないよう注意しながら根をほぐしてから植え付けると、その後の活着が良くなります。根をほぐす程度は一概には言えませんが、多少ばらつかせる程度にとどめます。全部土を落としてしまうまで根をほぐすと、その後の生育が悪くなります。

 根がしっかり回っている場合は、上の画像程度に根を
 ほぐして植え付けます。


植付け
 鉢への植付けは、10.5cmポットの場合は15cm鉢、13.5cm鉢の場合は18cm鉢程度が適当です。市販の培養度でも、赤玉土にバーミキュライトを混ぜたような土でもけっこうです。水はけの良い土を使用してください。
 また、今までのポットの鉢土の表面の高さと同じ高さになるように、浅く植えて下さい。



それ以降の管理は、下の花菖蒲の作り方と、花菖蒲栽培管理一覧をご覧下さい。
また、NHK出版から、「NHK趣味の園芸 人気品種と育て方 ハナショウブ(花菖蒲)日本花菖蒲協会編」 定価1,700円 が出ておりますので、お求めの上ご利用下さい。



花菖蒲の作り方

18cm鉢に植えたところ。10月上旬の状態。腰水をなるべく
行わず、夏場から十分肥培すると良い苗になる。


1 水草ではありません

カキツバタは湿地でよく生育しますが、花菖蒲の場合は不適当です。
 花菖蒲園で湛えているのは、園の景観上の美しさのためと、花時だけ水を湛えることにより連作障害を引き起こす物質を流すという目的と、草丈をより伸長させるという目的のためで、開花期以外の季節は畑状態で栽培します。
 年中水漬け栽培しますと生育が悪く、根が腐りやすくなります。

 一般の庭植えでは、株のまわりに敷草を敷いて乾燥を防ぐ程度でよく育ちます。
 鉢植えの場合は、浅い受け皿を利用して1〜2センチくらいの腰水管理が簡単です。また、他の一般の鉢花同様、腰水をしないで管理しても、元気に生育します。
 ただ、花どきは水分を多く必要としますので、腰水管理にした方が草丈ものび、大きな花が咲きます。



2 日当たりの良い所で

花菖蒲の原種のノハナショウブは本来草原など日当たりの良いところに自生する植物です。園芸種の花菖蒲もこの性質を受け継いでいて、日当たりの良い場所を好みます。少なくとも半日は日の当たる屋外で栽培してください。

植え土は畑土や田土が理想的ですが、一般の植物が良く育つ土であればよく出来ます。鉢植えの場合も同じですが、なければ市販の赤玉土とバーミキュライトを7対3程度に混ぜたものなどに植え付けると良いでしょう。


3 定期的な株分けが必要

ノハナショウブは自然状態では種子により世代を交代しながらより住みやすい場所へ分布を広げるという性質を持っており、栄養状態のよい大株はあまり見られません。
 園芸種の花菖蒲もこの性質を引き継いでおり、なおかつ観賞面重視の改良のため、野生種にくらべ性質は一般に弱くなっています。数年植え替えずに大株になると、次第に株が衰弱し、いずれ消滅するという性質を持っていますので、定期的に株分けをして株を若返らせるという作業がどうしても必要です。


株分けは2〜3年ごとに
 地植え(庭植、花菖蒲園)の株は、2〜3年ごとに、必ず株分けを行います。
 鉢植えの場合は、毎年株分けを行うか、一まわり大きな鉢にそのまま植え替えます。こうすると2〜3年は株分けしないで作れますが、それ以上株分けをしないと成育が悪くなるので、楽しんだあとは必ず株分けを行ってください。


株分け植え替えの適期
 株分けや植え替えは、開花期からその直後が適期です。しかしこの季節は暑さに向かう時期であり、株分けが遅れると暑さで痛みやすいので、極力早めに行うことが大切です。
 また、この時期に株分けできなかった場合は肥料を与え、夏のあいだに十分肥培したものを涼しくなる晩夏から秋口にかけて株分けします。秋の株分けは、株さえ充実していれば株分け後の植え痛みもなく、開花直後の株分けよりむしろ安全ですが、涼しくなりはじめたら、早めに行うことがポイントです。
 秋十月以降、または春先の株分けや植付けは、次年夏(今年度夏)の開花に影響するので、控えた方が無難です。止むを得ない場合は、根鉢を極力崩さず行います。


株分けの方法
 開花直後に行う場合、先ず咲き終わった花茎を株元から切り、次に葉を根元から二十センチ程度のところで切り落とします。葉を切り落とすのは、植付け直後の葉からの水分蒸発を防ぐため、また風などによって苗が倒れるのを防ぐためです。

 次に切り落とした花茎があった部分を中心にして、株を半分に割り、それをさらに細かく分け、一篠から三篠程度の苗に仕立てます。




苗の植え付け
@ 庭植え
一平方メートルあたり、二十本前後が適当です。元肥は不要。
深植えせず、株元が少し土に埋まる程度の浅植えにします。
植付けが終わったら潅水し、株元に乾燥防止と雑草が生えるのを防ぐ為、藁などでマルチングをします。


A 鉢植え
株分けした苗は、まず3寸5分程度の小鉢に無肥料で浅く植え付けます。
そして前に述べたように浅い受け皿を利用して腰水管理を行いますが、水を切らしてしまう事さえなければ、腰水をしない方が良く出来ます。
 腰水を行う場合は、あまりにも深く水を浸けすぎますと、新根の発育も遅れ、夏場の高温で水が煮え、枯死しやすくなりますので、1cm程度の、ごく浅い腰水にとどめます。ときには水が切れてしまうこともありますが、心配はいりません。
植え付け後2ヶ月くらい経ち、順調に生育してきたら、苗を6寸程度の本鉢に定植します。


4 肥料は、夏から秋にかけて

花菖蒲は夏から秋にかけて葉でつくられた同化養分を、いったん根にたくわえ、その力で次の春に芽をだし花を咲かせます。したがって、夏場から秋十月上旬の間にしっかり肥培することがポイントになります。開花後の株分けをしない株は開花直後から、株分けしたものは1ヶ月経たくらいから肥料を施します。
 肥料の分量は、一般の草花に与えるのと同じ程度に。液肥、油粕の玉肥、化成肥料など、手近にあるもので結構です。例えば油かすの玉肥えなら、6寸鉢で鉢の隅3箇所に一個づつとかを施しますが、これだけやれば良いではなく、施肥後およそ半月経て、葉が濃い緑色になって勢いがついてくれば、肥料が効いている証拠です。肥料が効いていない場合は再度施します。
 春から開花までの期間は、秋の約半分程度、葉の色が黄色っぽくならず、きれいな緑色になる程度に、軽く施します。

 また、夏から秋にかけて、伸び過ぎた葉を切っても良いかという質問を多く受けますが、葉は株を充実させる大切な部分ですので、初冬に自然に枯れるまで切らず、そのままにします。


病害虫の防除

 花菖蒲の病害は、病気にかかっても大丈夫なものと、致命的なものとがあります。
例えば開花時から秋にかけて、葉先に褐色の斑紋が現れることがありますが、この症状はこれによって株が枯れてしまうものではありません。
しかし、5月前後や秋月頃に発生する黄萎病といって、株全体が黄色くなり成長が止まる病害や、立ち枯れ病などは特効薬もありませんので、見つけ次第抜き取ります。
近年発生するようになったリゾクトニア性の立枯病は、早春から開花期頃までに新芽が黄変して枯れる病気ですが、これも今のところ決定的な対処方法がありません。
詳しくは日本花菖蒲協会側のリゾクトニア性立枯病の防除をご覧下さい。
また、一般に多肥栽培をすると、これらの病害が発生しやすいようです。

 害虫の発生は、少量栽培する程度ならそれほど心配はありませんが、大量栽培すると成長点を食い荒らすズイ虫や、根茎を食害するコガネムシの幼虫が大量発生しやすくなりますので、オルトラン粒剤などの殺虫剤を定期的に散布し、発生を予防します。


 連作障害を防ぐには

 花菖蒲をはじめアヤメ科の植物は、おなじ場所で長年つくり続けると、次第に出来が悪くなる傾向があります。これを連作障害といいますが、これを防ぐには、次のような心配りが大切です。

  1. 植え土を深く天地返しする。また、土の入れ替えや客土、良質なたい肥などの混入を行なう。鉢作りの場合では、一度使用した土を再度使用する場合は、新しい土を半分程度混入します。
  2. 株分けを励行して、常に株を若く元気な状態に保つ。
  3. 丈夫な品種を植え付ける。一概には言えませんが、極大輪のみごとな品種ほど、性質は弱い傾向があります。逆に長井古種や江戸花菖蒲などは、本来庭園植栽のために改良されてきた系統なので、一部の品種をのぞき比較的性質は強健で、繁殖も良好です。


 栽培関係の資料

花菖蒲年間栽培管理一覧カレンダー