菖蒲   しょうぶ   サトイモ科
Acorus calamus


端午の節句の菖蒲湯や菖蒲葺きに使うサトイモ科の植物。花菖蒲はアヤメ科なので、まったく別の植物。

湿地に生える宿根草。根茎は分枝して横に這い広がる。葉幅は2〜3cm前後、草丈は70cmくらいから時に120cm以上にもなる。花は株元付近にサトイモ科独特の直径5cm前後の目立たない花穂を上げ、4月中旬頃から5月中旬頃にかけて開花する。


剣のように勢い良く伸びる葉と独特の香気を持ち、中国古来からの陰陽五行説による、端午の邪気を払う厄除けの植物として、大和時代にこの風習が伝えられた。中国では「白菖」と書く。「菖蒲」は中国では石菖を指す。

大和朝廷は、この植物に「菖蒲」の文字を当て、「ショウブ」と音読みさせた。しかし、一般には「あやめぐさ」や、単に「あやめ」と呼ばた。万葉集にも「あやめぐさ」を読み込んだ歌は12首ある。

平安時代になると、宮中で端午の節句の年中行事として、「菖蒲葺き」、「菖蒲の輿」、「菖蒲枕」、「菖蒲刀」、「菖蒲の鬘」、「菖蒲の兜」、「菖蒲根合」などが行われた。

平安時代後期以降に登場してきた武家社会のなかでも、菖蒲の厄除けや魔除けといった霊験を期待してか、鎧の化粧板などに「菖蒲韋」を用いた。これは、藍染韋に菖蒲紋を白抜きしたものである。この文様は葉だけを描いたらしいものもあるが、中央にクロスのような十字の花らしきものがり、その左右対称に葉が描かれているものが一般的である。




菖蒲の草姿
こうした大和時代からの「菖蒲の文化」のなかで、ショウブに葉がよく似たノハナショウブなどのアヤメ科植物も、いつしか菖蒲と結びつけられて行った。または、大和時代より古い時代からノハナショウブなどの方が先に「あやめ」と呼ばれていたのかもしれない。そのあやめに葉姿が似た草だから、菖蒲が「あやめぐさ」と呼ばれたのかもしれない。
ノハナショウブは、菖蒲に葉が似ていて花が美しいので、古く「はなあやめ」とも呼ばれた。また詩歌の世界に咲く「はなかつみ」とも結び付けられた。

江戸時代に花菖蒲が園芸植物として着目され発達したのも、古来からの菖蒲の文化が基盤となって、花菖蒲も同様に、端午の節句の祭りの花、霊験あらたかな花といった認識があったことは言うまでもない。そのため花菖蒲ではないが、花菖蒲を語る上で重要な植物と考えここに取り上げた。
花菖蒲が、熊本の肥後六花の一つに選ばれたのも、花が美しく、かつ魔を切り裂く鋭い葉を持った霊験あらたかな草として、武士の精神修養に適った花であったからだろう。また、「尚武」という語呂合わせもあったと思う。


明治時代になって、植物学者たちが、花あやめには「花菖蒲」という字と「ハナショウブ」という読みを与え、このとき花菖蒲の原種は「ノハナショウブ」となった。

あやめ草には「菖蒲」という字と「ショウブ」という読みを与えた。そして、江戸時代には渓孫(けいそん)などと呼ばれた植物に「アヤメ」という名前を与えた。

しかし、花菖蒲のことを「しょうぶ」や「あやめ」と呼ぶ場合も未だに多く、混乱してたいへんややこしくなっている。判別のため、菖蒲を「節句菖蒲」や「葉菖蒲」と呼ぶ場合もある。


菖蒲の栽培は、花菖蒲などよりはるかに簡単で、一般の畑地でも植えておきさえすればよく生育する。敢えて湿地に植える必要はない。15cm程度の鉢でも栽培できるが、30cm程度の大鉢植えの方が勢い良く伸びる。病害虫も無く、栽培に全く手間がかからないので場所があれば植えておき、端午の菖蒲湯に使用するのも良いと思う。

菖蒲の花

端午の節句の菖蒲葺き