翠 映   すいえい   SUIEI

江戸系   中早生   パールピンクの花弁に、二色花とまでは行かないが、鉾のみやや濃色のピンクに染まる三英花。花径は約16cm程度の中輪。草丈はおよそ100cm前後。丈夫で繁殖もひじょうに良い。
1992年、加茂花菖蒲園 永田作

平尾秀一氏の「清少納言」の実生で、親と草姿や花形がよく似ている。平尾先生が作られた江戸系の品種は、みなその花形という点では似ており、肥後系の三英を簡略化したような、品のある花形であることが多い。例えば「栄 紫」にしても「清少納言」にしても、「千代の春」にしても、どことなく肥後系の花形を意識されていたように感じるのである。この「翠 映」もそんな花形を継承している。現代の花菖蒲の、基本的な花形の一つだと思う。また、この品種は性質も丈夫で繁殖も良く、花菖蒲園でも十分使えまた品があり美しいので、多くの方からお褒めの言葉を頂いている。私はこれ一つあればいいや。と常々思っている。



私が感じている花菖蒲の魅力の一つに、その花の作者が記録として残っているということがある。これは多分、菖翁からの伝統だと思うが、熊本でもその花を作出した作者の名前は、満月会の名花録に残り、その流れからだろうか、衆芳園の花も、作者ははっきり残されているし、戦後では殆どの花の作者が記録され「花菖蒲品種総目録」に記されている。私は詳しく知らないが、他の伝統園芸植物でもそうだろうか?


また、私は「花菖蒲は人だ」と常々感じている。これはどういうことかというと、花菖蒲はどのような花を改良して作り出してもも悪いわけではないので、園芸植物でありながら、ちょうど陶芸作品のように、改良された時代や地域の気風や、作者の個性がとても顕れやすい花なのである。そして一人の作者が作った花を何品種も見ていると、その作者の個性や考え方や理想、美意識などが、だんだんと見えて来る。「千代の春」や「清少納言」を見ると、平尾先生が理想を描き、その花を見て感動して取り上げたときの思いが、花の上に生きているのが読み取れ、花の上に先生の心はまだ生きておられるように感じるのである。

単なる花以上の、メディア性、文化性を持つ花として、私は今はこの部分が好きで、花菖蒲を見ている。

そして、ほんとうに良い花というのは、単に豪華とか改良の粋を極めたとか、きれいとかいうのではなく、いつまでもそして多くの人の心に残る花なのだろうと思う。