神路の雪 かみじのゆき KAMIJI NO YUKI
伊勢系 早生 純白の三英花。花径はおよそ14cm程度の中輪。垂れ下がる花弁、「蜘蛛手」
という雌蕊先端の切れ込み、細かな凹凸のある縮緬地の弁質など、伊勢系独特の特徴のよく顕れた
花である。草丈は50cm前後と低い。
伊勢系の古花で、明治37年(1904)以前から、三重県松阪地方でごく少人数の人々で栽培されていた。
現在では、三重県松阪市の松阪三珍花会で保存されているが、一般に栽培されることは希な品種である。
当園にも「神路の雪」が以前からあり、販売もしていたが、松阪で伊勢花菖蒲の古花を保存して来られた田中
信一氏から譲られた「神路の雪」を見て、別種であることがわかった。
伊勢系の品種というのは、江戸や肥後に比べると、ほんとうに慎ましいというか、奥ゆかしい花が多い。本種も
そうだが、芸が細かく、心を落ち着かせて穏やかな心で観賞しないと、その本当の良さを味わえないような気さえ
する。茶室のような小さな日本間に鉢を持ち込み、香でも焚いて落ち着いた心境でゆっくり観賞したいと思う。
しかし、花菖蒲園などをやっていると、花時は忙しくてそんな心境には全くなれない。まして花菖蒲など見るのも
だんだんうんざりしてくる。毎年こんな感じなので、伊勢系の良さを味わうなど全くできない。足早に写真を撮り、
後になって冬場にでもゆっくりその写真を観賞しながら、良さを味わうのがせいぜいである。