早生辰野   わせたつの   WASE TATSUNO

江戸系   白地に紅紫の細筋が入り、鉾は紅紫となる単純な三英花。花径はおよそ10cm程度の小輪。
草丈は約50cmくらい。性質、繁殖は普通。

吉江清朗氏の作花で、年代は不明だが、1970年頃と考えられる。「辰野」より早咲きという命名で、確かに
幾分早く咲く。


作者の吉江氏は球根ベゴニアやマツモトセンノウなど、さまざまな植物の品種改良を行った育種家で、
花菖蒲では、戦前、神奈川県農業試験場に在籍して花菖蒲の品種改良を行った宮沢文吾博士の、大分
での早生花菖蒲品種改良の後を継ぎ、1962年頃から改良に着手し、1970年代にかけて多くの極早生系
花菖蒲を作出した。これらは「吉江系」と呼ばれた。

氏の作品には、本種や、「霧ケ峰」、「八ヶ岳」、「辰野の青空」、「諏訪御寮」など、氏が住んだ長野県辰野
町周辺の地名を名前にした品種が多い。


1980年代頃は、この吉江系の花菖蒲は当園に多く植栽されており、全国各地の花菖蒲園にも出荷されたので、
吉江系の品種はよく普及していると思う。しかし最近では、極早生咲きも優良な品種が多く生まれたため、当園
では「八ヶ岳」など一部の品種をのぞき、吉江系の品種はあまり植栽しなくなった。

こんな品種を見ていると、確かに少し前に比べても花菖蒲は十分発達してきたことは実感としてわかるが、こんな
おだやかな花でもよかった昔を懐かしく感じる。「最近の花は騒々しくて飽きが来る。」と、協会の理事さん連中が
話していたが、その言葉も頷けるような気がする。