千姫桜   せんひめざくら   SENHIME ZAKURA

肥後系   光田氏の作花で、氏のカタログには「濃い桃赤色、大波多芸の働き弁、三英」とある。
花径は15cm程度と記憶している。名前からして同じく氏の作花の「千姫」の後代と思われるが、
草丈は40cm程度と低く、性質はひじょうに弱く、とうとう当園では絶えてしまった。幸い、この品種
の自家受粉による実生から、「紅 桜」が生まれ、こちらは殖えるので、また紅桜を自家受粉すれば
この「千姫桜」の花を造るのは難しくはないと思っている。花色や花弁の質は紅桜とほぼ同じだが、
紅桜の方が僅かに花色が濃かったように記憶している。

写真の花は咲き初めで、咲ききると花色はもう少し淡くなる。


光田氏の花の選抜方法は独特で、苗の段階で丈夫に元気良く育っている苗は全て処分して、弱そうな苗のみ残し
花を咲かせるのだという。何でまたと思うが、その方が良い花が取れるのだと話していたという。が、考えてみれば
花の芸が良く発達するほど性質は虚弱になるので、花を見る前からどんな花が咲くのかだいたい判る。栽培面積
の少ない場合の育種では有効な方法なのである。しかし、そうして作ると良い花は出来るが、栽培家泣かせの性質
の弱い品種ばかりになる。氏の晩年の花はそんな品種が多く、そういった品種を家宝のように秘蔵している栽培家
もいるが、時間の経過とともに、ある程度淘汰されるのは仕方ないかもしれないと思う。

今は、この花は当園には無いが、私は個人的には欲しいとは思わない。欲しければ「紅 桜」を実生すれば生えて来
るのだが、いまさら草丈も低く性質の弱い品種を作出しても意味が無いと思う。それよりも性質の丈夫な品種と交配
して、この花色、花形をもった丈夫な品種を作った方が良いと思う。