濡 燕 ぬれつばめ NURE TSUBAME
江戸系 中生 紫色の平咲きから椀咲きの六英花。花径はおよそ15cm程度の中輪。
草丈は100cm以上に伸びる。性質、繁殖は普通。
紫色のごく平凡なというか、芸のない花である。と、書いてしまえばそれだけなのだが、私はこの花を見ていると、
江戸時代の宝永年間に発行された「増補地錦抄」を思い出すのである。この本には「花菖蒲るい」として32品種
もの花菖蒲が記載されているのだが、その中に「六やう」という花があり、解説に「随分こいむらさきるり色花ひら六枚
宛出大りん」とある。この時代の大輪とはどれほど大きい花なのかとも思うのだが、「嶋せうぶ」が小輪とあるところを
みると、やはりこんにちの感覚とかわりなさそうである。とすると大輪とは15cm程度はあったわけで、椀咲きの紫大輪
とは、現存する濡燕のような花だったのではないだろうかと思うのである。今から300年も前の時代に、すでにこのような
花菖蒲があったのかと思うと、この花を見る目もまた違ってくる。
この花は、1953年に伊藤東一氏が作出した花である。