無 双 むそう MUSO
江戸系 早生 白地に薄紅紫の砂子がぼかす三英花。花径はおよそ15cm程度の中輪。
草丈は100cmを越す。性質、繁殖は普通。
戦前に神奈川県農業試験場(現在の大船植物園)にて、宮沢文吾博士が作出した品種。
当時、花菖蒲は米国などにさかんに輸出されており、神奈川農事試験場では、輸出に対
する新花作出が花菖蒲改良の目的だった。宮沢氏はこの試験場で、大正4年から9年頃に
かけて改良を行い、その成果を昭和11年に「農事試験場成績 花菖蒲の品種改良成績」
として一冊の本に纏めた。そこにはこの「無双」をはじめ、300品種が紹介されている。
これら、宮沢氏が大船で作出した花菖蒲は、こんにち80品種ほどが残り、大船植物園に
保存植栽され、「大船系」と呼ばれている。しかし、一般にはこの大船系品種は普及しておらず、
「揚羽」、「荒磯」、「揚羽」などがわずかに普及しているのみである。
この花を見ると、平尾氏が作出した江戸系とはまた違う、おだやかな花形なのが私には印象的
である。平尾氏の江戸系は肥後系の美意識から見た江戸系のような気がする。この花は、肥後系
が普及する前に作出され、肥後系を意識して作出されてはいない。大船植物園の花菖蒲園に行くと
そんな大船系の品種だけが植栽されており、やはり他の花菖蒲園の花とは全体の雰囲気からして
違っていたのが、とても心に残っている。やりどこか古風な、江戸のおもかげがあった。
1921年、宮沢文吾氏作