長生殿   ちょうせいでん   CHOSEIDEN

江戸系   中生   白地にやや薄い紅紫の大覆輪。平咲きで花径はおよそ14cm程度の中輪。
草丈は120cmを越え高く、性質は丈夫で繁殖も良い。

江戸花菖蒲の古花の一つ。「菖花譜」という菖翁作などの花菖蒲品種目録に記載されており、それによると、
万年禄三郎という人物の作とのことである。この人物は、菖翁は旧友と語っており、江戸時代末期、本所
の割下水に住んだ旗本であった。菖翁は彼のことを「名に負おふ花好き」と呼んでいるが、菖翁のように自
作の品種を秘蔵することなく、花菖蒲の新花を作出しては販売した。菖翁はそんな彼を「培養録」の中で、
「ああ、彼は花を好んでも愛さなかったのか、珍しい花が現れるとすぐ売ってしまったと聞く。」といっ
て嘆いてるが、これらの品種が堀切の小高伊左衛門に渡り、以降堀切の花菖蒲は益々隆盛を極めるように
なったと考えられる。

江戸時代の花菖蒲の育種家と言うと、松平菖翁ばかりが目立つが、菖翁の花が堀切に普及するのは幕末から
明治に入ってからなので、菖翁以上に江戸後期の堀切の隆盛に貢献したのが、この万年氏ではないかと推察
される。

この長生殿という品種を、菖翁は「培養録」の中で「平咲きの雑花」と言っているが、今となっては花菖蒲
の歴史の生き証人のような花である。

なお、この品種を自家受粉させて実生すると、海老茶色のようなくすんだ薄紅色の花が現れる。「峠の茶屋」
などがこれに当たるが、江戸後期の花菖蒲の色彩の一つだったようだ。