加茂花菖蒲園花菖蒲データベース https://kamoltd.co.jp/katalog/index.htm



朝戸開   あさとびらき   ASA TO BIRAKI

江戸系   中生  鮮やかな濃いブルー紫に白筋の入る三英花。花径はおよそ16cm程度の中輪。

平尾秀一氏の作花。「朝戸開」という名前は、1969年に平尾先生と当園主の加茂が、千葉県の牧野善作氏の所に泊まり、朝一番に戸を開けて花菖蒲の圃場を見たとき、一輪の花がまさに咲き始めており、その鮮明なブルーがパッと眼に飛び込んで来たからだという。その花に「朝戸開」と付け、その類似花に「新朝戸開」と命名した。「青岳城」もこのときの選抜である。

この頃、平尾先生は花菖蒲の純粋なブルーを追求しており、江戸花菖蒲の古花の「浅妻舟」が、肥後系などには見られない純粋なブルーを含んでいることを見出し、この品種を親に「伊豆の海」を作出し、そしてさらに発展させていった。この「朝戸開」もその展開の上に現れて来た花であり、さらに「藍草紙」から「碧 鳳」に続いた。


だしかし、この「朝戸開」と「新朝戸開」、「青岳城」はたいへん良く似ていた。株は後から送りますからということで、加茂はその時は命名株を携えては来ず、株が到着して、翌年咲いたら、どうも選んだ個体と違っていたような気がするということになった。両者はうり二つで、青岳城には覆輪があるという違いだけだったそうだが、似た個体の花ばかりが咲く圃場だったので、朝戸開の株を違えてしまったのではないかと話す。そして、「朝戸開」と名前を付けたのは平尾先生と見たその花だけで、それ以降に当園に来た「朝戸開」は個体が違うようだと言う。

また、私は、「朝戸開」と「めざめ」の区別が付かないでいた。同じ花だった。そういう時間が10年以上続いた。つまり、当園の私たちもその区別がつかぬまま、混ぜてしまっていたのである。当然、「朝戸開」は私も「めざめ」とどう区別があるのかわからぬまま、出荷していた。2年くらい前の事だが、平尾先生の10周忌が過ぎて、協会の会報に平尾先生の青の育種のことを、加茂が書くことになり、そのとき「朝戸開」の写真を持って行くと、この花ではないということになり、「朝戸開」命名のいきさつを話してくれた。命名された「朝戸開」はそのときだけで、当園に来た朝戸開が本物でないことも、その後「めざめ」を朝戸開と間違えていたこともわかった。

しかし、1000を越す品種があり、ただでさえ忙しい開園期間中のこと、一つの品種の正誤を議論する間もない事は、仕方もないことなのだろうと思う。それではこの写真は、本物なのかと問われると、私は自信はない。「青岳城」のような気もする。「最新花菖蒲ハンドブック」の朝戸開を信じてはいたが、あれも青岳城だと言う。そうなら、ここで紹介する理由があるのか、という話になるが、平尾先生の有名な品種でもあり、裏話としてご紹介した。